りぼんの読書ノート

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駅物語(朱野帰子)

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著者は本書のことを海に降るに次ぐ「のりものシリーズ第2弾」と言っています。ただし、「鉄分」は増えたものの「科学色」は減っていますね。この著者には、できれば「空想科学小説」、そうでなくても「科学小説」を期待していましたので。

一流大を卒業した就職エリートだった若菜直が、東京駅の現場に就職したのには理由がありました。彼女には、鉄道好きだった弟が1年前に亡くなった際、絶望と後悔のあまりに駅で倒れ、見ず知らずの5人の人々に救われた過去があったのです。その日から彼女は、「奇跡が起きるところ」である鉄道駅に就職し、5人の人々を探し出して恩返ししたいとの「夢」を持つようになっていました。

しかし新人女子駅員にとっては、まず仕事を覚えなければ何も始まりません。本書はまず、同期や先輩や上司との関係の中で仕事に目覚めていく「女性のお仕事小説」なのです。そこにプラスされるのが「例の5人」との再会です。現実の5人は決して「理想の人々」ではなく、仕事や家庭や友人関係に悩む「普通の人たち」にすぎないのですが、仕事を超えて彼らの抱える問題に踏み込んでいく部分は「女性の成長物語」ですね。

仕事についても、人間関係も、エピソードも、よく書かれていたと思います。ただし、5人目も「普通の人」だったのは少々残念。私の予想では、「乗客の期待は普通の一日であり、駅に夢は不要」と言い切る助役の松本でした。「現実に立脚することこそ夢に結びつく」というオチかと思ったのです。大穴は、本社の方ばかり見ていて現場を蔑視している副駅長の吉住。「実はいい人」というのもアリかと思いましたので。

ついでながら、「鉄道会社は鉄道マニアを採用したがらない」というのは、初めて知りました。実際には「隠れ鉄ちゃん」は大勢いるのではないかと思いますが・・。

2014/12