美貌の古本屋店主・篠川栞子が古書に関わる謎を鮮やかに解いていく人気ミステリの第５巻。このシリーズを通じて流れている２つの大きなストーリーラインが、この巻で交差することになります。
ひとつは、このシリーズの語り手で、古書店でバイトをしている五浦大輔が、栞子に抱いている恋心の行方。前巻で告白した大輔に対して「５月末まで返事を待って欲しい」という栞子には、その前にどうしても確認しておかなくてはならないことがありました。
もうひとつは、栞と母親・智恵子との関係。古書に関する恐るべき知識と鋭い洞察力を合わせ持つ智恵子は、一種のスーパーウーマンなのですが、自分がやりたいことをするために、家族を捨てて家を飛び出してしまっているのです。最近になって姿を現した智恵子は、自分と同じ才能を持つ栞を連れ出そうとしているのです。
第１章は、失踪した夫を探すために夫が残した古書情報誌の売買を繰り返す女性の物語。ここでは、シリーズ常連のある人物の過去が判明します。第２章は、母の死に立ち会えなかった父親を恨む息子の物語。『ブラックジャック』にこれほどさまざまなバージョンがあるとは知りませんでした。この両親の出会いは、どちらも手塚治虫ファンだったことなのですね。
そして第３章に登場する寺山修二『われに五月を』初版本に関わる事件こそ、智恵子が娘・栞子を試すための問題だったのです。そうか、５月末という「回答期限」は、この本と結びついていたのか。それにしても、自分にも責任の一端があった、ある家族の長年の不和が誤解にあることを知っていて、ずっと放置しておいた智恵子の感覚には、怖いものがあります。
果たして、栞子が確認したかったこととは何で、彼女は大輔にどう回答することになるのでしょうか。もっとも、大輔のリアクションを見る限り、栞子は余計な心配をしていたようなのですけれどね。ラストに、第１巻での悪役が再登場。次巻では、大輔の過去にまつわる秘密を巻き込んでのひと騒動がありそうです。シリーズの終わりも近そうですね。
2014/12
