りぼんの読書ノート

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リザベーション・ブルース(シャーマン・アレクシー)

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ワシントン州のスポーカンインディアン居留地で生まれ育ち、居留地外で高等教育を受けて作家となった著者による、現代インディアンの現実をマジカルかつユーモラスに描いた作品です。以前読んだローン・レンジャーとトント、天国で殴り合うは短編集でしたので、はじめて読む長編になります。

物語は、1938年に死亡したとされる伝説のギタリスト、ロバート・ジョンスンが居留地に現れたところから始まります。悪魔と取引してテクニックを身に着けたといわれるギタリストは、実は死んではいず、居留地内の山上に住む「ビッグ・ママ」に救いを求めに来たというんですね。

彼が置いて行ったギターは、スポーカン族のはみだし連中の手に渡り、「コヨーテ・スプリングズ」なるバンドが誕生するのです。メンバーは、誰にも耳を傾けてもらえない語り部トマス、無職でアル中の悪ガキのヴイクター、真面目なのにヴイクターの面倒をみているジュニア、さらにフラット・インディアンの美女姉妹のチェスとチェッカーズ。インディアンの心情を歌うバンドは、スターデビューへの道を駆け登ろうとするのですが・・。

とにかくヴィクターが無茶苦茶なのです。悪魔のギターに魅入られたヴィクターの振る舞いは、ほとんどトリックスター。あとのメンバーだって、居留地内の常識しか知らないのですが、「外の世界」を見て悩むだけ、ヴィクターよりはマシ。しかし「外の世界」は、インディアンに扉を開いてくれるようには思えません。彼らが抱く閉塞感を、呪術的に描いたのが本書の世界なのでしょう。ユーモアたっぷりの語りの裏にあるのは、「虐殺」を続ける白人社会と、同族内で憎しみ合うインディアンの双方への怒りのように思えます。

2014/12