りぼんの読書ノート

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白い牙(ジャック・ロンドン)

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荒野の呼び声は、カリフォルニアからアラスカに売り飛ばされた混血犬バックが、ついに巡り合った理想の飼い主の死とともに野生へと旅立っていく物語ですが、本書はその逆バージョン。

犬の血を1/4ひくとはいえ、野生の狼として生まれた「ホワイト・ファング(白い牙)」が、インディアンに捉われ、さまざまな運命を経た後に、鉱山技師とウォードン・スコットと運命の出会いを果たし、信頼と愛情で結ばれていく物語。

これだけで独立した短編として成立するくらいに完成度の高い、第一章がいいですね。アラスカの氷原を犬ぞりで旅する2人連れが、飢えた狼の一行に追われるエピソード。銃弾は3発しか残っていず、夜になると犬が一匹、また一匹と消えてゆく・・。読者はいきなり過酷な野生の世界に取り込まれてしまいます。

ただ、本書のテーマの宿命でしょうか。物語の舞台が野生の自然から、インディアン居留地と交易所を経て、カリフォルニアへと文明の度合いが増していくに連れて、段々と迫力を失っていくのは仕方ありません。そこを救うのが、徐々に人間を理解していく「ホワイト・ファング」の心理の変化です。それは擬人化ではなく動物心理の類推なのですが、例えていえば「神話時代の人間心理」か「幼児の理解する世界」という感じ? ちょっと「う~ん」です。

でもそんなことは、自然の侵食こそが文明と考えられていた時代に、野生と人間の交流を可能とする著者の主張を貶めるものでも、もちろん小説としての素晴らしさを減じさせるものでもありません。この主張とこのストーリーにもっとも適した「前提」と思えます。著者の、強さへの崇拝や、人種差別意識(当時はそれが当然だったのでしょうが・・)も透けて見えるとはいえ、動物文学の大傑作であることに変わりありません。

2010/9