りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

いそさん(米村圭伍)

イメージ 1

質屋の若旦那で病弱な清次郎が、突然連れ帰って居候させた男、通称「いそさん」とはどんな人物で、どんな事情があったのでしょう。

周囲の者たちの不審な思いを余所にして、若旦那といそさんのコンビは、小さな奇跡を起こしていきます。例会を開くことにした汚い場末の居酒屋は美味い料理を出す快適な空間となり、孤独な男たちの惨めなやけ酒は仲間と飲む楽しい酒になり、腕はいいが酒乱の大工の政吉は質屋の女中のおもんと結ばれて実直な生き方をするようになるのです。

若旦那が心臓の病で亡くなったあとも、いそさんは居候で居続けます。若旦那尾の実父の九兵衛だって、息子の友人として遇し続け、亡き息子を思い出すよすがと思うようになっているほど。しかし、肝心のいそさんは、それをどう思っていたのでしょう。

実は若旦那といそさんには、天保の改革で禁止された「娘浄瑠璃つながり」があったのです。生活が立ちいかなくなって行き倒れるほど実直に「娘浄瑠璃」に入れ込んだいそさんへの「若旦那の頼み」は、読者を温かい気持ちにさせてくれます。でも米村さんに期待しているのは、もっと奇想天外な「講談」なんですけどね。

2014/12