りぼんの読書ノート

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レディ・ヴィクトリア 5 ローズの秘密のノートから(篠田真由美)

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19世紀末ヴィクトリア朝のロンドンを舞台にして、天真爛漫なレディ・シーモアと、国際色豊かな使用人たちが活躍する「歴史ミステリ」の最終章。

 

本書は4つの中編からなっています。第1章は17歳になったメイドのローズが、奥様から豪華な革表紙と鍵がついたノートブックを誕生祝にプレゼントされた物語。彼女はどんな心の秘密をノートに記していくのでしょう。妹エスタが突然ロンドンに出てきて働きたいと言ってきたときには焦ったけれど、奥様の計らいで何とかなりそうです。このシリーズは、ローズが記した物語なのかもしれませんね。

 

第2章と第3章は中国人コックのリェンが関わる物語。アロー号戦争で父親を失って渡英したリェンが大切に持っていた青磁の皿には、どのような秘密が隠されていたのででしょう。そして北京で円明園の庭師をしていたという父親が命にかけても守りたかったという宝とは何だったのでしょう。

 

第4章と第5章は婦人倶楽部の出資者である公爵夫人が遭遇した不思議な物語。死期が近くなると自分の分身と出会うとの言い伝えがある公爵家に姿を現した、老夫人そっくりの人物は死神なのでしょうか。事件の背景には「ありがたくない厚意は悪意より始末が悪い」という事情があったようです。

 

第6章と第7章は、ある高位の人物が舞台のサロメ嬢との醜聞で強請られている事件の解決を依頼された物語。ことは英国王室継承問題に関わってくるというのですが、チーム・ヴィクトリアは鮮やかに解決してみせます。ついでにレディ・シーモアに敵意を抱いていた、亡夫の息子の妻オーガスタとも和解できたのは何よりでした。

 

著者は、大英帝国の影の部分を取り込んだ物語を綴り、さらには落日の予感の予兆として「切り裂きジャック事件」を描くために、第2巻で辞めたメイドの名前を犠牲者のひとりとしたという伏線まで仕込んでいたとのこと。このシリーズではそこまで至りませんでしたが、著者は書く気満々のようですので、いずれ読めるのではないかと期待しています。

 

2021/3