明治維新から17年後。明治政府の鹿鳴館外交が欧州列強政府から失笑をかっていた一方で、ロンドンではオペラ「ミカド」がヒットするなど、日本趣味が人気を集めていたようです。そんな中、ナイツブリッジで見世物興業を行っていた日本人村が火災で焼け落ち、焼け跡から斬殺死体が発見されるという事件が発生。シーモア家の前で行き倒れていた記憶喪失の日本人青年や、ミカドの持ち物だったと騙る「翡翠の香炉」詐欺は、この事件とどう関わっていたのでしょう。
『第2巻』から登場してきた新米メイドのローズが、天真爛漫な視点で奥様方の活躍を綴って行きます。それだけでなく、頑なな日本人青年の心を開いていくのですから、純真さは世界共通の武器ですね。ローズもまた「チーム・ヴィクトリア」の重要なメンバーなのです。
著者は、明治時代の日本人留学生気質や、海外で一旗揚げようと日本を飛び出してきた旅芸人の実情や、彼らを利用する興行師の存在や、さらに既に海外で生まれ育っていた日系2世の悲哀などを、本書の中に取り込んでいきます。この時代に日本人と関わることになった使用人たちもいたのでしょう。複雑な二重殺人の真相は意外とあっさり解かれてしまいますが、本書の核となる部分は謎解きではありませんね。
2018/11