りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

賢者の石、売ります(朱野帰子)

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海に降るなどの科学小説を得意とする著者の作品ですが、本書は少々毛色が変わっています。テーマが「似非科学」なのです。

主人公の羽嶋賢児をバリバリの科学信奉者としたのは、「地学者 兼 鉱物販売業」の父親の影響だけでなく、家庭内に反面教師がいたことだったようです。父親が癌で亡くなる前に詐欺的な健康食品などに大金を費やした母親や、出産・子育て期間に非科学的なネット情報などに振り回された姉の存在が、彼を科学原理主義者にしてしまったのです。

大手電器メーカーで商品企画部に移動となった賢児は、自社のヒット商品である美容家電商品にダメ出しを始めてしまいます。確かにマイナスイオンとか、セルライトとか、コラーゲンとか、小顔とか、美容関係の商品には効果が疑わしいものが多いですよね。しかし機能性だけをうたった商品を購入する際に、消費者はコスパを強く意識するというのも事実のようです。似非科学信奉問題や、科学とお金の問題は、正論だけでは解決できないのです。

「最後には科学が勝利する」と信じているという著者は、会社でも家庭でも孤立を深めていく主人公救いの手を差し伸べるのですが、そのためには賢児も成長しなくてはいけませんね。科学コミュニケーションを進めるためには、人間的な度量の広さも必要だし、何より科学に夢を感じてもらわないといけないのですから。

現実世界でも、そのあたりは一進一退ですね。本書でも触れられていた「はやぶさ」はプラスでしたが、「スタップ細胞」はマイナスに働いたはず。まずは、ネットに溢れる似非科学情報をなんとかしたいものですが・・。

2017/7