りぼんの読書ノート

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帰郷の祭り(カルミネ・アバーテ)

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イタリア南部に点在するアルバニア系住民の子孫である著者の作品も、これで5冊めになりました。貧しい村では生計が立たず、ドイツやフランスにイタリアに出ていく者も多かったようで、自伝的要素も濃い本書においても移住は大きなテーマとなっています。『風の丘』が「故郷にとどまるために闘い続けた者たちの物語」であるなら、本書は『偉大なる時のモザイク』や『海と山のオムレツ』と同様に「旅立ちを強いられた者たちの物語」です。しかし故郷を去った者たちも、常に故郷に引き寄せられているのでしょう。

 

本書は中学生になった少年マルコの物語。父親が毎年フランスに出稼ぎに向かう中で、マルコは祖母や母とともに村に残らざるを得ません。できるだけ長く父と一緒にいたいマルコは、家を離れてしまう父を恨んだ時期もあったものの、今ではそれがやむを得ないことだとわかっています。しかしその夏は特別でした。一時は生命すら危ぶまれるほどの大病に罹り、長期の入院生活を余儀なくされた少年は、その副作用として我儘になってしまったのです。さらには大学生となり輝くように美しくなった異母姉エリーザの悪い噂も聞いてしまったのです。そして父親が不在の間に、マルコに試練の時が訪れるのでした。

 

本書において異郷へと出ていく者は父親ですが、似たような運命が自分を待ち受けていることを少年も理解しています。父親が語る過去の物語は、村の集団的な記憶の一部となり、やがては少年の未来となるものなのかもしれません。しかし著者があとがきで触れているように、繰り返される神秘を直視して試練を乗り越え、ひとまわり成長するであろうマルコは、皆から愛される幸福な少年なのです。帰郷には痛みも歓喜も伴うものの、本質的には祝祭なのですから。

 

2021/5