りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

偉大なる時のモザイク(カルミネ・アバーテ)

f:id:wakiabc:20210312150518j:plain

15世紀にオスマントルコの支配を逃れてイタリアに移住したアルバニア人が創った村が、イタリアの南方には点在しているとのこと。これらの土地では現在でも、古アルバニア語に近いアルバレシュという言語が話され、ギリシャ正教の影響を受けた独自の文化や習俗が保たれているそうです。本書は、そうした村の出身者である著者が架空の村「ホラ」を舞台にして描いた、500年に渡る移民の物語。

 

ホラの村を開いた初代パパス(司教)であったヅィミトリ・ダミスの末裔とされるアントニオ・ダミスは、アルバニアから文化交流にやってきた民俗芸能グループの踊り子ドリタに心惹かれます。遥か昔の祖先の出身地への憧憬も相まって、ダミスはアルバニアを訪れてドリタに再会。しかし当時は事実上の鎖国を行っていた独裁社会主義体制の時代。2人は全てを捨ててアルバニアからもイタリアからも脱出するのです。

 

そして20数年後、アントニオの娘と名乗る若い女性ラウラがホラを訪れます。大学を卒業したばかりのミケーレはラウラと恋に落ちますが、村人たちはまだ村を裏切ったアントニオを許していません。そして異国の地で病を得たアントニオが村に戻ってくるというのです。彼とドリタは村と国を捨てた後、どこでどのように暮らしていたのでしょう。老いたアントニオは、村の指導者を捕えるという不吉な「風の影」を逃れることができるのでしょうか。そしてミケーレとラウラはどのような道を選択するのでしょう。

 

ミケーレに古い物語を語る、モザイク師のゴヤーリという人物が登場します。近年のアルバニアからの移民である彼は、なぜか500年前の移民の物語のみならず、アントニオとドリタの物語まで知っており、民族の歴史を描く「時のモザイク」を紡ぎ続けます。いくつもの冒険譚や悲恋がモザイクのように繰り返される物語は、「なぜ人は生まれ故郷から逃げ出さなくてはならないのか」という問いかけに対する、著者の答えのようです。

 

古代遺跡のロマンとアルバニア移民の誇り高い闘いを重ね合わせて描いた『風の丘』や、一族の故郷に戻るという祖父の夢を継いだ青年の物語である『ふたつの海のあいだで』など、重層的な構造を持つ移民の物語を書き続ける著者の作品は、どれもモザイク画のように芯の強い美しさを感じさせてくれるのです。

 

2021/4