りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

太陽が死んだ日(閻連科 エン・レンカ)

中国で何度も発禁処分を受けている著者の新作も、やはり現代中国の地方における矛盾を象徴的に描き出しています。舞台は著者の故郷とおぼしき伏牛山脈の見える郷鎮であり、もはや創作の力を失っていた著名作家の閻連科なる人物もそこに戻って、老いた母親とともに暮らしています。それにしても「太陽が消えて時間が止まる」とは、どういうことなのでしょう。そしてそれは何を象徴しているのでしょう。

 

大地の骨が折れるように暑い七月の黄昏。ある村で謎の病「夢遊」が伝染しはじめます。夢遊に犯された人々は心の奥底にしまいこんでいた秘密や隠されていた欲望をむき出しにし、昼の世界の秩序は崩壊していきます。ある者は過去の罪の重さに耐えかねて自殺し、ある者は隣人への憎悪を吐き出して暴力沙汰に及ぶのです。しかし圧倒的に多かったのが窃盗や略奪であったことは、村人たちの貧富の差が最大の問題であり、人々は本質的に貪欲であることを意味しているのでしょう。そして夢遊が蔓延した狂気の夜は、朝になっても明けることはありませんでした。

 

本書の語り手は14歳の少年・李念念です。彼の父母は葬儀用品店を営んでおり、母方の叔父は火葬場長をしています。土葬が一般的であった村では、権力によって強制された火葬への嫌悪が強かったのでしょう。火葬によって豊かになった叔父は嫌われ者であり、父親はかつて土葬を密告したことで報奨金をもらった過去を悔やんでいます。夢遊に犯されることなく人々の狂気を直視し続けた念念は、村人たちの憎悪が一家に向けられていることに気付くのですが、彼にできることなど限られています。やがて父親は、村に日の出をもたらすべく、自らを犠牲にしようとするのですが・・。

 

狂気の果てに大殺戮事件が起こったことは冒頭から示されています。遺体を火葬する際に出る屍体の油や、葬儀用の花輪や金箔の冥紙など、死を象徴するモチーフも徹底的に重ねられていきます。しかし最後の最後に、念念の父親が思いがけない方法で「太陽」を創り出したことで、本書のテーマは死から生へと転じました。無意識の夢遊がもたらした救済の意味について、読者はしばし考えを巡らせる必要がありそうです。

 

2023/5