りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

オリーブの実るころ(中島京子)

結婚と家族と愛をめぐる6篇の物語が収録されています。一見平凡な日常の中にも、複雑な人間関係が潜んでいるのです。そして別居や離婚というネガティブな行為が、その後の豊穣な人生をもたらすこともあるのです。

 

「家猫」

離婚した40代の独身男性をめぐって、本人、母親、元妻、現愛人がそれぞれの胸中を語ります。まるで映画「羅生門」のように、当事者の数だけ真実があるのですね。しかし最後の4人めの「真実」はあまりにもブラックです。

 

「ローゼンブルクで恋をして」

妻を亡くした74歳の父親の終活とは、遠く離れた山陽の地で市議会議員に立候補したシングルマザーの応援に駆け付けることでした。父親の「心置きなく死ぬための準備」には、いったいどのような背景があったのでしょう。ちなみに日本の地名をドイツ語にすると無駄にかっこいいそうです。ちなみに私が住んでいるのはタォゼントブラトのミュンドゥングビリヒです。

 

川端康成が死んだ日」

モラハラ夫から逃れて失踪した母が生き続けることにしたのは、偶然にも鎌倉で自殺直前の川端康成に出逢ったせいだったようです。老文豪は彼女に「あなたは僕と同じ眼をしている。末期の眼に映る自然は美しい」と語りかけたというのです。

 

ガリップ」

まさか恋のライバルが雌の白鳥だったとは。新妻と白鳥の間の神経戦は悲劇を生みますが、両者の間には親密な関係が生まれました。そもそも他人同士が結びつく結婚とは、異類婚姻譚みたいなものかもしれません。

 

「オリーブの実るころ」

向かいの家にひとりで住み始めた老人が、庭に2本のオリーブの木を植えたことには理由があったようです。それは半世紀前に起こった悲恋物語と関係していたのです。

 

「春成と冴子とファンさん」

両親の間に生まれた齟齬は、長い別居生活の末の離婚に至っていました。しかしそれぞれ型破りな父親と母親の人生は、決して不幸ではなかったようです。

 

2023/5