りぼんの読書ノート

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光の軌跡(エリザベス・ロズナー)

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それぞれに忌まわしい記憶を背負った3人の男女の再生物語と言ってしまうと、いまどき目新しいテーマでもないのですが、詩人でもある著者によって、詩情あふれた美しい作品に仕上がっています。

腕に数字の入れ墨を持つユダヤ人の父親はアメリカに移住して、子供たちに何も語ることなく病死しています。息子のジュリアンは将来を期待された物理学者であったものの、父親の死後は部屋に引きこもってしまい、大学から科学辞典の改訂の仕事をもらって生計を立てています。部屋に積み上げられた11台ものテレビの無音の画面は、彼が物語を拒否して傍観者であることを象徴しているようです、

声楽家を目ざしている妹娘のポーラは、カリスマ指揮者との恋愛を断ち切ってヨーロッパに渡り、各国でオーデションを受けている間、兄の世話を掃除婦のソーラに依頼します。実は南米出身のソーラには、村人たちが虐殺された村で唯一生き残ったという過去がありました。

互いに似たものを感じ取ったジュリアンとソーラは、戸惑いながらも惹かれあっていくのですが、今度はポーラに問題が起こります。父の故郷のハンガリーで出会った父の知人から、父が語らなかった過去の辛い出来事を知らされて、ショックのあまり声が出なくなってしまうのです。

そんな3人にとって再生のきっかけとなるのは、やはり物語が持つ力なのでしょう。生きている人たちの間も、あるいは死者との間も繋いでくれるのが物語であり、物語を語り合うことによって絆が生まれるのでしょうから。

2018/9