りぼんの読書ノート

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龍秘御天歌(村田喜代子)

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秀吉による文禄・慶長の役の際に日本へと強制連行された朝鮮人陶工たちを、有田の地に集結させて興隆への道を切り開いた張成徹こと辛島十兵衛が大往生を遂げました。父親の後を継いだ総領息子の十蔵は日本のしきたりに従った葬儀をやむをえないものとして受け入れようとしますが、十兵衛に長年連れ添った妻の朴貞玉こと百婆は朝鮮式の葬儀にこだわります。

しかし宗門人別改帳による国民全仏教徒の国で、鍋島藩から名字帯刀を許された大物陶工の葬儀を、寺院以外で行うことなど認められようはずもありません。かくして「来し方60年の苦がここに極まる」という百婆と、「子や孫たちの行く末60年の苦もここできまる」という十蔵の対立劇の幕が切って落とされました。

朝鮮語でお経をあげて欲しいと言って、恋歌である南道雑歌の歌詞を僧侶に読ませた百婆のアイデアは成功しますが、土葬か火葬かの問題は深刻です。火葬されてしまっては天に昇れないのですから。しかし遺体と遺骨のすり替えという大技など、うまくいくのでしょうか。近くて遠い両国の文化の違いを葬儀という一大行事の中に凝縮してみせた、楽しくも重いテーマを含んだ作品でした。

本書の6年後に書かれた百年佳約では、死後に神となって人間界を見守っている百婆と、既に押しも押されもせぬ頭領となっている十蔵が、子孫たちの日本人との結婚を巡ってふたたび争います。ということは、百婆は火葬を免れたのですね。

2019/2