りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

三途の川で落しもの(西條奈加)

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橋から落ちて意識を失った小学生の叶人が気がつくと、そこは三途の川でした。叶人を待ち受けていたダ・ツ・エヴァ(脱衣婆)はアニメキャラの金髪美女で、県営王(懸衣爺)は役人風のおじさん。叶人が言葉からイメージした通りの姿を見せているようです。

しかし、三途の川の番人たちは叶人の扱いに困ってしまいます。彼はまだ死んでいないし、橋から落ちた理由も、事故か自殺か殺人か判然としていないというのです。とりあえず叶人が命じられたのは、三途の川の渡し守である、江戸時代の人物と思しき2人の男を手伝うこと。ひとりは生まれ変わるたびに親を殺す運命にある侍の十蔵で、もうひとりはほとんど殺人鬼の虎之助。

現世に未練を残して亡くなった者たちを来世に送るには、未練を断ち切らなければなりません。ある意味では残酷であり、ある意味では救済ともなる役割についた叶人は、自分がここにいる理由を理解しはじめます。それは、一度は失った「生きたい」との望みを再び沸き起こさせるための試練だったのですね。

ヤングアダルト向けの作品であり、予定調和的な結末は予測されてしまうのですが、十蔵と虎之助がなぜ輪廻を拒否する運命に陥ったのかも含めて、深いものも含んでいる作品です。シヴォーン・ダウドとパトリック・ネスによる秀作怪物はささやくと共通する匂いすら感じられます。

2014/1