りぼんの読書ノート

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アイルランドの柩(エリン・ハート)

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アイルランドの泥炭遅滞で発見された古代の死体から始まる物語」というと、シヴォーン・ダウドのボグ・チャイルドを思い起こしますが、そちらがアイルランド独立闘争と平穏な生活の狭間で揺れる高校生の心情を叙情的に描いた作品であるのに対し、こちらは現代の殺人事件に絡むゴシックサスペンス調の小説です。

とはいえ、単なるミステリではありません。泥炭地帯から発見された女性はクロムウェルアイルランド侵略時代のものであり、現代に続く領主一族の出生の秘密に迫るという、時を越えた二重ミステリになっているのです。

地元の名士ヒュー・オズボーンの妻ミーナと幼い息子クリストファーが失踪したのは4年前のこと。巷では夫のヒューこそ犯人ではないかととの憶測が流れている中で、考古学者コーマックと解剖学者ノーラは、ヒューの領地から発見された女性の頭部の調査に臨みます。女性の身元を探り出す決め手となったのは、老婆が思い出した古謡とヒューの屋敷に隠された地下室にあった古文書だったのですが、そこには妻と息子の失踪の秘密も隠されていたのでした・・。

実はオズボーン一族は中世から続いた領主ではなく、アイルランドを再侵略したクロムウェルカトリックの地主を追い出した後に領主の座に就いた「よそ者」だったのですが、その「歴史的事実」が調査によって覆っていくんですね。

ノーラの妹に起きた事件や、現代の失踪事件を追う刑事デヴァニーの家族との関係や、死体を発見した農夫ブレンダンの妹ウーナとヒュー・オズボーンの関係など、「盛り込み過ぎ」の内容がこなれていない感もあるのですが、アイルランドの詩情溢れる作品となっています。フィドルの奏でる旋律をバックミュージックに読むといいかも。^^

2013/1