りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

無花果とムーン(桜庭一樹)

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荒野に囲まれて孤立した無花果町に住む18歳の月夜は、家族の誰とも血は繋がっていず、紫の瞳と狼の歯を持つ「もらわれっ子」でした。それでも現実主義者である教師の父親と銀行員の長兄・一郎、明るくてカッコいい次兄の奈落に囲まれて不自由なく育っていたのですが、奈落の突然死で「せかい」が変わってしまいます。

奈落の死に責任を感じる月夜の「せかい」は、突然として現実と非現実の間を幻想的に彷徨い出したかのようです。もう一度逢いに来るという奈落からのメッセージ。月夜を嫌いながら月夜にしがみついて現実世界に引き戻そうとする超絶美少女の苺苺苺苺苺(いちご)。町のUFOフェスティバルに現れたジプシー的な2人の青年、密と約。お兄ちゃんそっくりの密を奈落が戻ってきた姿と信じた月夜は、奈落の死の直前に起きた出来事を語り始めるのですが・・。

本書は、日本神話のイザナギイザナミや、ギリシャ神話のオルフェウスなど、昔からある物語の定型のひとつとも言えるでしょう。「思い残すことがある死者がこの世に戻ってきて、生者が喪の儀礼を執り行い、死者があの世に還る話」なのです。もちろんそれは同時に「生者が身近な者の死を受け入れる話」でもあります。

本書はまた「家族の絆を問い直す話」とも、「少女が自分の居場所を見つけ出す話」とも読めるのですが、著者が桜庭さんですし、この文体ですし、どうしても「少女」的な部分が圧倒的なウェイトを占めてしまいますね。「少女の悲しみと妄想がせかいを変えてしまう話」として読んでも間違いではないのでしょう。もっと「野獣」的な部分があったほうが、読み物としては好きなのですが・・。

2013/1