りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

金木犀とメテオラ(安壇美緒)

「少女たちの挫折と成長と友情の物語」などと評してしまうとありきたりに思えますが、優れた作品は読者の心に響くのです。少女たちの内面に深く迫ることができるのかがポイントなのでしょう。

 

12歳の春。2年前に母親を亡くして娘の成長や教育に無関心な父親によって、北海道にある中高一貫の女子校に送り込まれた宮田佳乃は、自分の運命を受け入れられません。秀才でプライドが高く、国際ジュニアコンクールにも入賞したほどのピアノの腕前を持つ彼女には、人生のスピンアウトとしか思えなかったのです。

 

そんな佳乃がライバルと見なすのは、入試トップで入学生代表挨拶をした地元出身の奥沢叶。パッと目を引く美少女でもあり、そつのない優等生の叶は、誰もが羨むような存在でしたが、彼女もまた複雑な家庭事情を抱えていたのです。

 

互いにプライドが高く、自分の不幸を嘆いている2人の少女たちは、自分に無いものを備えている相手と仲良くなれるはずがありません。しかし学園生活を通じて2人は気づくのです。不安も恐れも孤独も緊張も、自分だけのものではないと。今の境遇から脱出しようともがいているのは自分ひとりではないと。そして2人にそれを気づかせ、自己否定の泥沼から這い上がらせてくれたのは、内心軽蔑していた普通の級友たちだったのです。そのひとりである森みなみの視点から綴られるスピンオフ短編「スーパースター」も、いい味を出しています。

 

著者にとってはデビュー作『天龍院亜希子の日記』に続く第2作ですが、第3作『ラブカは静かに弓を持つ』で「大化けに化けた」とのこと。こちらも期待して読んでみようと思います。

 

2022/12