りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2011/11 ものすごくうるさくて、ありえないほど近い(ジョナサン・サフラン・フォア)

アメリカの「ポスト9.11小説」は早い時期から書かれていましたが、文学的に優れた作品が出版されるようになったのは、この数年のことと思えます。今月1位にあげた作品も、そんな1冊。

日本において「ポスト3.11小説」が本格的に書かれるようになるのは来年以降でしょうか。
1.ものすごくうるさくて、ありえないほど近い(ジョナサン・サフラン・フォア)
9.11テロによる父親の死を受容できていない9歳の少年オスカーが、父親が遺した鍵に合う鍵穴を求めてニューヨーク中を探し回る冒険譚。それが、ドレスデン空襲で恋人を失って人を愛することを恐れるようになった祖父の人生の歴史とシンクロしていきます。オスカーは、悲劇から眼をそむけたくなる自然な感情を乗り越えるきっかけを掴めるのでしょうか。「ポスト9.11」を斬新に描いた小説です。

2.円朝芝居噺夫婦幽霊(辻原登)
著者が入手したという「円朝の怪談噺の速記録」が円朝の語り口そのままに紹介されるのですが、著者が速記録の由来を探る訳者後記こそが本論ですね。そこからは、円朝に廃嫡された放蕩息子・朝太郎が、偉大な父親に対して抱いていたであろう想いが浮かび上がってくるのです。

3.ジェノサイド(高野和明)
人類から進化した存在の誕生を巡る「エピソード・ゼロ」のような物語。内戦下のコンゴに派遣された傭兵チームへの「見たこともない生き物」を殺害せよとの指令と、日本の大学院生に課された現代化学の限界を超えた薬品開発は、どう繋がっていくのか。「たったひとりのジェノサイド」との言葉が重みを持ってきます。

4.デニーロ・ゲーム(ラウィ・ハージ)
「一万の砲弾が降り注いだ」内戦下のベイルートキリスト教民兵組織の支配地域に暮らすアルメニア系の不良少年バッサームと、民兵となった幼馴染みのジョルジュとの友情は、極限状態のもとで緊張していきます。タイトルが意味するものは、映画「ディア・ハンター」の主演俳優による「ロシアン・ルーレット」のことなのですが・・。




2011/11/30記