りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ボグ・チャイルド(シヴォーン・ダウド)

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1981年の北アイルランド。イギリスの大学に進んで医者になることを目指している高校生のファーガスは、叔父と一緒に小遣い稼ぎに泥炭の盗掘に行った際、国境近くの湿地(ボグ)で2000年前に絞殺され、泥炭によって保存された少女の遺体を発見します。

考古学者から依頼されて少女を「メル」と名づけたファーガスは、少女の声が何かをささやきかけてくるように感じます。考古学者の娘・コーラへの淡い恋、迫る試験への不安、頑固な父親と口うるさい母親・・それだけならごく普通の高校生の物語にすぎないのですが、紛争の地の厳しい現実が迫ってきます。

アイルランド独立派の政治犯として逮捕された3歳上の兄のジョーが、獄中で死に至るハンガー・ストライキに入ったというのです。司令部から中止命令を出してもらえないかとの期待を抱いて、ファーガスは兄の友人からの危険な依頼を受けてしまうのですが・・。

ハンストで10名の死者を出し、反イギリステロ活動が激しさを増す時代には、普通の高校生として生きることは許されないのでしょうか。2000年前に決然として死を選んだ少女の声は、衰弱する兄を気遣いつつも自分の行為を忌まわしく思うファーガスを救うことはできるのでしょうか。

苦悩の時代の中でも若々しい感性を失わない青年を描いた著者は、ロンドンのアイルランド系家庭に生まれ、国際ペンクラブで作家の人権活動に携わりつつ小説家を目指したそうです。1960年生まれですから、事件当時は21歳。本書には、自身の青年時代の思いが反映されているのでしょう。作家デビュー直後に47歳で早世されたとのこと。本書は死後に発刊された作品です。

2011/11