りぼんの読書ノート

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ダーク・ブルー(真保裕一)

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有人潜水調査船「りゅうじん6500」の活躍を描いた海洋冒険小説です。もちろんモデルは実在する「しんかい6500」であり、本書の日本海洋科学機関(JAOTEC)とは、国立の海洋研究開発機構(JAMSTEC)のこと。

 

大深度まで潜水できる調査船は世界で7隻しかなく、「6500」は日本のみならず世界の深海調査研究を担う重要な役割を果たしているのですが、建造は1989年と古く、近年では2012年に大改造を終えたところです。ただし経費削減が叫ばれる中で、それ以降は予算も職員数も先細り中。しかも深海調査の主役は有人船から無人ロボット船へと切り替わろうとしており、なかなか難しい立場にあるようです。

 

そんな中で完璧な結果を求められる深海実験に乗り出した航海で異変が起こります。なんと武装集団のシージャックに遭って母船が乗っ取られ、全員が人質にされてしまうのです。彼らの目的は、虐待され続けたフィリピンの少数民族解放のために、深海に沈んだ船から「世界を変え得る力を持つ宝」をサルベージすること。経験の浅い女性操縦士の夏海は、銃をつきつけるシージャック犯とともに調査艇に乗り込み、暗く蒼い海の底へとダイブしていくのですが・・。

 

著者は本書を、深海調査を巡る人々を描く群像劇としたがったように思えます。潜航チームのみならず、母船の船長をはじめとする乗員たち、潜水シミュレーターやロボットアームの開発を進める偏屈な大学教授や研究員たち。夏海と研究員の蒼汰が微妙な恋愛関係にあることや、最後の航海に出た母船船長・江浜のエピソードなどが盛りだくさんなのですが、少々ピントがぼけてしまった印象です。深海での息詰まるサルベージ作業の描写が見事だっただけに惜しまれます。もっと「冒険小説」に徹したほうが楽しい作品に仕上がったのかもしれませんね。

 

2021/2