りぼんの読書ノート

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モモコとうさぎ(大島真寿美)

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モモコ、22歳。離婚と再婚を繰り返す母のおかげで複数の父を持つモモコは、就職に失敗して、母親とも折り合いが悪くなり、居場所を失ってしまいました。突然家出して転がり込んだ先の友人たちは、それぞれ就職や結婚に神経をすり減らしており、もはやモモコとは違う世界に生きているよう。そしてモモコの放浪が本格的に始まります。

5年前に外資系の怪しげなマルチ警備会社に就職した兄の独身寮。先端医療リゾート地と化した幼少期を過ごした町での最底辺の汚れ仕事。早逝した実父の故郷の限界集落での寺の掃除人。桃源郷と呼ばれる芸術家村での縫物の仕事。劇的な出来事こそ起こらないものの、それぞれに個性ある人物と出会って、モモコは変わっていくのです。知らなかった父や母の若い頃のエピソードもまた、個性豊かでした。

結局のところモモコが必要としていたのは、就職先でも居場所でもなく、生きようとする力だったのかもしれません。なんとなく転々としていたモモコは、最後には自分の意志で居心地の良い場所を出ていくのです。モモコを観察しているような謎めいたAIウサギたちも、もう彼女のことを心配する必要などないのでしょう。本書の帯に「アンチお仕事小説」とありましたが、そういうジャンルでもありませんね。楽しくて軽やかで深みも感じさせる著者の作風に、一段と磨きがかかったように思います。

2018/12