りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ふくろう女の美容室(テス・ギャラガー)

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詩人、小説家、そしてレイモンド・カーヴァーの妻としても知られる著者の短篇集です。タイトル作もそうですが、短編10作品の中で美容室が登場する作品が3つ。夫を亡くした中年から初老の女性が、詩情をもって日常の断片を切り取った一人語りが上手な作家だという印象を持ちました。でも、例えばアリス・マンローには及びません。

「ふくろう女の美容室」
美容室(サロン)と酒場(サルーン)、どちらも入った時とは別人のようになって出て行く場所。女だらけの美容室で洗髪してもらう語り手の、隣に座った男性に対して感じたうとましさが、彼の話を聞いているうちに好意に変わっていく心の動き。

「むかし、そんな奴がいた」
金払いの悪い手配師に復讐した中年の木こりが、互いにくたびれた姿で再会。著者のお父さんは、アメリカ北西部で木こりだったんですよね。こんな感じだったのでしょうか。

「生きものたち」
夫の浮気に苦しみ、娘からは長年可愛がってきた老猫を始末したことを責められる美容師のエルナ。切れそうになるエルナに対して、常連の女性客たちは優しいのです。

「石の箱」
離婚した妹の娘を預かってきた子供のいない姉夫婦が、再婚した妹に娘を強引に引き取られてから姉妹は絶縁してしまいます。娘の私物を送るように言われた姉が、箱に石を詰めて送る場面は不気味だけれど、やがて姉が死の床に着いたとき、和解は成り立ったのでしょうか?

「来る者と去る者」
亡き夫の事業に関連して訴えられた未亡人が、夫が亡くなったことすら知らない訴状配達人に、夫の居場所として墓場の住所を教えます。悲しさや悔しさが、ユーモラスに昇華されているよう。

「祈る女」
昔から恋のライバルだった女性から、夫へのラブレターを発見した妻は、ただ祈ります。やがて夫が妻にかけた言葉は?

その他は、未亡人が周囲の勧めで銃の購入を検討しながら未使用の暴力を想像する「マイガン」。亡くなった、もと作家の隣人の思い出を偲ぶ「ウッドリフさんのネクタイ」。夫婦のもとに訪れた、妻の元上司だった盲人とのしんみりした会話のキャンプファイヤーに降る雨」。レジの順番を巡って口論になった女性を許す気持ちになる「仏のまなざし」

加えて、母が愛した庭について母と語り合う「聖なる場所」と、全て焼いてしまった父から母へのラブレターを偲ぶ「父の恋文」の2つのエッセイが収録されています。

2008/10