りぼんの読書ノート

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花粉の部屋(ゾエ・イェニー)

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「通りを二、三本へだてた所に母が越し、わたしは父と残った」冒頭からいきなり、両親の離婚があっさりと語られます。第1部は、主人公の少女、ヨーの幼年時代。両親は離婚し、それぞれ別の相手と暮らし始めます。

第2部では、18歳になり高校を卒業したヨーが、再婚した父親のもとで居場所を失い、南欧で芸術家肌の男性と暮らしている母親を訪ねます。しかし、その男性は事故で死亡。すぐに別の男性と付き合い始めた母親のもとから去ったヨーですが、もはやどこにも居場所はありません。

ヨーの両親は、いわゆるヨーロッパの「1968年世代」です。アメリカではヒッピーやフラワー・チルドレン。日本では全共闘世代。学生時代に体制に逆らい、自分の気持ちに忠実に生きることを優先した世代は、その後、離婚数の増加という減少を生み出したそうです。

スイス人の著者によって書かれ、ドイツ語圏でヒットした本書は、彼らの子供たちから親の世代に向けた、「別れの手紙」のように思えます。南欧で知り合った金持ちの娘・ニコラも、父の再婚相手の連れ子・パウリーンも、みなヨーと同世代であり、それぞれ親と折り合いをつけられないでいるのです。

タイトルの「花粉の部屋」とは、ヨーの母親ルーシーが、連れ合いの事故死から立ち直るまでの短い期間に籠っていた、花粉を撒き散らしたアトリエのことですが、それは、娘に対する無関心を象徴しているものなのでしょうか。「花粉の部屋」に籠りたいのは、むしろ若いヨーの世代のほうじゃないかと思うのですが・・。

2010/4