りぼんの読書ノート

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私の名前はルーシー・バートン(エリザベス・ストラウト)

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ルーシー・バートンという架空の作家が、一人称で語る回想記です。中心になっているのは、1980年代半ばに9週間に渡って入院生活を送った際に、イリノイの田舎町から見舞いにやってきた母親と過ごした5日間の思い出。子育ての合間に文章を書き始めてはいたものの、まだ作家になる前のこと。2人の娘もまだ幼いので、この頃のルーシーはおそらく20代後半か30代でしょうか。1956年生まれの著者と同世代の人物であることは間違いないようです。

久しぶりに会った母親との会話は、たわいもない近所の人のうわさ話ばかり。しかし不便な病室で一緒に過ごしてくれた母親の愛情を実感したルーシーは、家族と共に故郷で暮らした時代の思い出を再構成するのです。仕事が長続きしない父親のせいで、親戚の家のガレージで暮らすほど貧しく、テレビも本もなく、学校では差別され、しかも父親からは時に虐待めいた扱いを受けた子供時代は、彼女に観察眼を与えてくれていたようです。

ルーシーが作家となるに際しての、もうひとつの大きなきっかけは、街で出会った作家のワークショップに参加して、作家の現実の姿に触れたことなのでしょう。ニューハンプシャー州出身の女性作家による「ストーリーなんて一つしかないのよ。これと決まったストーリーを何通りにも書くんだわ」とのアドバイスは、同州出身のジョン・アーヴィングのことを思い起こさせてくれます。もっとも著者の作風は、アーヴィングと全く似てはいないのですが。

ルーシーはその後、両親を亡くし、兄や姉とは距離感を保ちながら、最初の夫とは別れて再婚し、育ちあがった2人の娘を持ち、ニューヨークで作家として暮らしています。そんな彼女が「私の名前はルーシー・バートン」と宣言するに至る「回想記」には、作家を作家たらしめるものについてのヒントが溢れているようです。

2017/9