りぼんの読書ノート

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ひとりの体で 上(ジョン・アーヴィング)

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アーヴィングさんの新作は、バイセクシュアルの老作家による回想記の形式で綴られます。例によって、本人は「本書は自伝ではない」と語っていますが、自伝的な変奏曲の一作であることは間違いありません。作中で引用されるシェークスピアの『テンペスト』を書き換えたいという主人公の願いのように、著者は自分の人生を何度も書き換えて記しているのでしょう。

13歳のビリーは、母親の再婚相手に連れていってもらった図書館で、司書の女性に恋をしていまいます。母親ほどの年齢で肩幅が広く胸が小さいミス・フロストは、その後彼が惹かれる「不適切な相手」の原型となります。しかしビリーは同時に、男性にも関心を持ってしまいます。それは、村芝居の女形であった祖父ハリーや、行方不明となった実父フラニーから受け継いだ血筋でもあったのです。

ビリーが惚れてしまう「不適切な相手」は、母親の再婚相手リチャードや、ハンサムで冷酷なレスリング選手キトリングや、のちに親友となる転校してきた女生徒エレインの母親など。そんなビリーに「惚れるのに『不適切な相手』なんていないよ」と告げるリチャードは、理想的な父親像です。それでもビリーの苦悩は止みません。本のなかに答えを見つけようとして、小説家になろうと決断するほどに・・。

舞台袖で俳優にセリフを教えるプロンプターとしての母親と、構音障害で上手く言葉を発音できないビリーは、補い合い、反発しあっていくようです。上巻の最後に明かされた、ミス・フロストに関わる驚天動地の真実は、ビリーをどこに誘うのでしょうか。

2014/4