りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

無垢の領域(桜木紫乃)

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直木賞受賞後の第1作は、やはり道東を舞台にした孤独な男女の物語でした。

秋津龍生(42歳)。地域の書道界で著名であった母親から大いに期待されながら、中途半端な才能に苦悩する書道家。その母親も現在では半身不随で認知症も患っています。秋津家の家計を支えているのは、高校の養護教諭として働く妻・伶子(38歳)。2人の間には子どもはなく、実家の母から離婚を勧められている状況。もうひとりの主人公は、民営化された図書館を運営している若き館長・林原信輝(35歳)。書道家だった母は自殺しており、同級生の恋人・里奈との結婚に踏み切れないまま優柔不断な関係を続けています。

図書館で開いた龍生の冴えない個展会場に林原の年の離れた妹・純香(25歳)が現れたことから、物語が動き出します。非凡な書の才能を持ちながら小学生程度の知能しかなく、悪意も邪気もない「子どものような」純香の登場によって、今まで隠されていた3人の暗い情念が、嫉妬や不倫という形をとって蠢き出していきます。

そして起こった悲劇と事件。暗く悲しい結末なのですが、むしろ救済に思えてしまいます。著者の作風からして「もっと救いのない結末」を想定していましたので。本筋からは端役ですが、伶子の教え子で妊娠した女子高生の強さが印象的でした。いずれ彼女を主人公とした別の小説が書かれるのではないかと期待しています。

2014/4