りぼんの読書ノート

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ブルックリン・フォリーズ(ポール・オースター)

 

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翻訳者の柴田元幸氏によると、本書は『幻影の書』と『オラクル・ナイト』に続く、「自分の人生が何らかの意味で終わってしまったと感じている男の物語」の第3作めにあたるそうです。語り手のネイサンは、肺ガン治療から生還したばかりのバツイチで初老の元保険外交員。「静かに死ねる場所」であるはずの生まれ故郷のブルックリンに56年ぶりに戻ってきたのですが、彼の人生はまだまだ余生などではなかったのです。
 

 

人生を豊かにするものは、やはり人との結びつきなのですね。ネイサンはそこで、将来を期待されながら挫折した甥のトムと再会し、彼を通じて多彩な人々と出会っていきます。トムを雇っている古書店主でゲイのハリーと女装芸人のティーナ。トムの姪で母親の再婚相手のもとから逃げ出してきた沈黙少女ルーシー。トムが密かに憧れている近所の主婦のナンシー。 

 

こうした普通の人々の人生に潜んでいる悲喜こもごもの「愚行(フォリーズ)」が語られていく中で、物語はトムの妹(つまりネイサンの姪でルーシーの母)オーロラの救出劇へと向かっていきます。彼女は再婚相手の説教師に、アメリカ南部のどこかで事実上囚われていたのです。その過程で運命の女性と出会ったトムは人生をやり直す決意を固めるのですが、もちろんそれは簡単なことではありません。 

 

物語は2011年9月11日の朝8時、すなわちハイジャックされた飛行機がツインタワーに激突する46分前に終わります。生きる活力を取り戻したネイサンの「人生第2章」は、どのようになってしまうのでしょう。残念ながら、本書の直接の続編は書かれていないのですが。 

 

2019/8