りぼんの読書ノート

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ひとりの体で 下(ジョン・アーヴィング)

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物語は、下巻に入って怒涛のように流れ始めます。ミス・フロストとの別離。留学先ウィーンでの新しい出会い。ベトナム戦争エイズ禍で次々と去って行く同年代の友人たち。その間「性的に不安であり続けた」ビリーは、自己を確立して作家へと成長していきます。

1960年代から現在へと至る、性的少数者の社会や政治との関わりを描く本書は、性的指向というテーマを軽々と超えていくようです。性的な違いに対する寛容を求める訴えは、人種、言語、国家、宗教、文化などあらゆる点で、自分たちと異なっている他者に寛容を求める訴えへと昇華されていくのです。エンディングで老いたビリーの発する、「僕にレッテルを貼らないでくれないか。僕のことを知りもしないうちから分類しないでくれないか」との叫びの美しいこと。

「ジュリエットを演じる勇気のある男の子」である教え子ジーが、終盤になって登場します。全てをしなやかに超越したかのようなジーの人物造型には、著者の理想が込められているように思えます。それは、近年ゲイであることを公言した、著者の末息子に対して求める姿なのでしょうか。

本書のタイトルである「In One Person」は、ひとつの身体の中にある複数の志向のように読み取れますが、「自伝的な物語」を毎回新たな視点から書き著し、新たな物語として仕上げていく著者の「作家魂」を表現している言葉のようにも思えます。

2014/4