りぼんの読書ノート

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緋の河(桜木紫乃)

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道東で逞しく生き抜く女性たちを描き続る釧路出身の著者が、同郷のカルーセル麻紀をモデルとして描いた、「この世にないオリジナル」を目指した少年の物語。あくまでフィクションであり、登場人物の名前は変えられ、本人の語らないエピソードを補われているとのこと。恥ずかしながら何の予備知識もなく読み始めたため、終盤で主人公が「カーニバル真子」と名乗るまでモデル小説とは気づかなかったのですが、その方が楽しめるかもしれません。

 

性的マイノリティへの偏見が強かった戦後すぐの時代。「きれいな女の人になりたい」と願いながら育った少年・秀男には、当然ながら強い逆風が吹き続けます。封建的な父親、理解のない教師、異質な存在をいじめる同級生。そんな中でも数少ない理解者であった姉や、彼を守ってくれた体の大きなハーフの少年や、彼の友人となるコンプレックスを持った少女の存在が、秀男を力づけてくれました。後に力士となる少年のモデルは大鵬でしょうか。作家志望の少女は著者自身の分身かもしれません。

 

高校を中退して家出し札幌のゲイバーで働いたのを皮切りに、憧れの先輩の勧めで東京へ、さらに大阪のショーパブから裸体舞踊をウリにするミュージックホールへ。波乱万丈のエンタテインメント人生を歩んだ秀男は、「男でも女でもない本物」を目指してショーマンシップに徹し続けます。本書はTVデビューが決まった秀男が性転換手術を公言する場面で終わりますが、現在は第2部を連載中とのこと。

 

フィクションで書くという著者の申し出に、カルーセル麻紀は「とことん、きたなく書いて」と応じたそうです。「そう書いたら物語が美しくなることをご自身がよく知っている」と著者が語っている通り、美しいばかりの物語ではありません。過酷で、孤独で、切ない物語だからこそ、少年の一徹さが際立つのです。これまでストリッパーを主人公とした作品も多く書いてきた著者が「いつか絶対に書きたかった」という熱量を感じることができる作品です。

 

2020/12