りぼんの読書ノート

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孤児列車(クリスティナ・ベイカー・クライン)

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1854年から1929年までの75年もの間、ニューヨークからアメリカ中西部へと身よりのない子どもたちを運ぶ「孤児列車」という慈善事業が行われていたそうです。これによって運ばれた孤児は20万人にも及び、新しい家庭に温かく迎えられた子供もいた半面、大半は安価な労働力として厳しい環境に置かれたとのこと。本書は、本国アメリカでも忘れ去られていた歴史に光をあてた作品です。

 

物語は2011年、アメリカ先住民の血をひく17歳の孤児モリーが、読みたかった『ジェイン・エア』を図書館から盗もうとして捕まった場面から始まります。罰として社会奉仕を命じられたモリーは、91歳になる老女ヴィヴィアンの屋敷の屋根裏部屋を片づけることになりますが、そこには老女の過去がぎっしりつまっていました。

 

アイルランドから移民としてやってきたニューヨークで火事にあい、最愛の家族を失ったヴィヴィアンは孤児列車に乗せられます。彼女はこの時9歳。養子にふさわしい乳幼児や、労働力となる健康な年長の少年が先に選ばれる列車で、年長の少女は後回しにされる傾向があったとのこと。案の定ヴィヴィアンは売れ残り、列車の中で心を通わせた少年や火事で失った妹のように世話をした幼女とも引き裂かれてしまいます。ようやくミネソタの奥地で引き取られたものの、縫子や子守として厳しい扱いを受け続けます。

 

そんなヴィヴィアンの数奇な人生が物語の本線ですが、この本のハイライトは、曾祖母と曾孫ほどに年が離れた2人の女性が心を通い合わせる場面でしょう。モリーの手助けを得て、生き別れた人々の消息を探り始めたヴィヴィアンに、小さな奇跡が起こります。そして里親から嫌われて追い出されそうになっていたモリーも、自分の居場所ができたようです。「身軽に旅するには何かを置き去りにしなければならないが、何よりも捨てがたい重荷は恐れである」との箴言は、人生という旅にも当てはまるのですね。

 

2020/12