りぼんの読書ノート

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アディ・ラルーの誰も知らない人生 上(V・E・シュワブ)

1714年。フランスの小さな村で生まれ育ったアディは、広い世界に憧れ、運命の恋人との出会いを夢見る普通の少女でした。しかし意に染まない結婚を強いられて追い詰められたアディは、村の老女の教えを破って「日が暮れてから現れる古い神々のひとり」と取引してしまいます。それは何者にも縛られない自由を長期間にわたって得ること。その代償は彼女が生きるのに飽いたら魂を差し出すこと。

 

もちろんそれは取り返しのつかない間違いです。誰と知り合っても誰の記憶にも残らない。自分の名前すら人に告げられず、書き記すこともできない。そんな人生に生きる喜びはあるのでしょうか。しかも闇の神は取引を完了させるために、彼女の人生を惨めなものにしようと仕組んでいるのです。

 

しかしアディは力強く生き続けます。もはや特技となった盗みを続けながらパリへ向かい、さらに欧州各地を巡ってアメリカに渡り、さまざまな体験をしながら300年という長い歳月を生き延びてきました。美しいものと出会う驚きや、知識を得る喜びを糧としながらも、圧倒的な孤独感は埋めようもありません。彼女のことを覚えていてくれるのは、毎年1度だけ姿を現す闇の神だけ。闇の神が敵なのか味方なのかすら、もやは判別できなくなっていきます。

 

そんなアディが2014年のニューヨークで、彼女のことを憶えていてくれる、たったひとりの人に出会います。アディはその男性ヘンリーに恋してしまいますが、彼はなぜ呪いの外にいることができるのでしょう。彼にはどんな秘密があるのでしょうか。謎めいた物語は佳境へと向かっていきます。

 

2022/10