りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

インドクリスタル(篠田節子)

イメージ 1

ゴサインタンでネパール、弥勒ブータン転生チベットを書いてきた著者が、より複雑なインド社会に挑戦した作品です。

惑星探査機用の人工水晶の核となるマザークリスタルを求めてインドの寒村に赴いた藤岡は、不思議な少女ロサと出会います。彼女は、宿泊先で使用人兼売春婦として働くカースト外の先住民でありながら、並外れた知能と不思議なカリスマ性を有しているのです。

藤岡は、雇い主からロサを譲り受けてNGOの身分を与え、通訳として使いながら、インド社会の闇の奥へと足を踏み入れていきます。彼の相手である地主や部族民は、商業倫理や契約概念もなく、強烈な差別意識と暴力性を併せ持ち、中世的な世界に生きている相手。悪戦苦闘の末、ようやく高品質の結晶が採れ始めたと思いきや、森の神の祟りとしか思えない災いも発生。そしてついに、悲劇が起こるのです。

グローバルなハイテク産業に関わる知識人などは、インドの中でも上澄みの上澄みなのですね。先住民の生活、NGOの活動、極左武装勢力の存在など、取材の深さを感じました。著者は、一番苦労したのは「ロサの人物造形」だったと語っていますが、安っぽいお涙ちょうだいを排し、薄っぺらな人権思想や民主主義を超越した時点で、そこはクリアしていますね。

2016/5