りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2016/5 ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女(ダヴィド・ラーゲルクランツ)

自作の世界的大ヒットを知ることなく早逝したスティーグ・ラーソンの『ミレニアム3部作』に、公式の続編が登場。3部作で唯一決着がついていない問題を掘り下げた点が当然としても、著者が代わったことを感じさせない力量が素晴らしい。第6部までの契約だそうですので、次作が楽しみです。奇しくも「スター・ウィーズ」新3部作と同じサイクルとのこと。
1.ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女(ダヴィド・ラーゲルクランツ)
雑誌「ミレニアム」は経営危機に陥り、代表者ミカエルも「過去の人」扱いされつつある中で、ある情報がもたらされます。人工知能研究の権威である教授が犯罪組織から狙われており、「凄腕ハッカーでタトゥーとピアスだらけの女」がからんでいるというのです。再登場したリスベットと、正体不明の敵との死闘が始まります。彼女のコードネームが「ワスプ」である理由など、まるではじめから計画されていたと思えるくらい自然です。

2.羊と鋼の森(宮下奈都)
羊毛製のフェルトハンマーが鋼の弦を叩いて、音楽を生み出していきます。ピアノの調律に魅せられた青年の成長物語は温かくて静謐で、著者自身が目指しているであろう「文体」への探求を思わせます。2016年の本屋大賞を受賞した作品です。

3.インドクリスタル(篠田節子)
超精密機器に用いられるマザークリスタルを求めてインドの寒村に赴いた藤岡は、カースト外の先住民でありながら、並外れた知能とカリスマ性を有する不思議な少女ロサと出会います。近代的な価値観など通用しないインド社会の闇の深さが、ロサという少女に凝縮されているようです。

4.若冲(澤田瞳子)
緻密な構図、大胆な題材、新規な手法による「奇想の画家」として知られる伊藤若冲の創作の秘密に踏み込んだ作品です。池大雅円山応挙与謝蕪村、谷文晁ら同世代の絵師たちとの交流のみならず、思い切ったフィクションを挿入して、作品と史実の間の空白を見事に紡ぎあげてくれました。今年の直木賞候補作です。



2016/5/30