りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

民のいない神(ハリ・クンズル)

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インド系イギリス人の著者による、不思議な物語です。「ピンチョンとデリーロの系譜に連なる」と紹介されていましたが、むしろクラウド・アトラス(デイヴィッド・ミッチェル)に近いものを感じます。

アメリカ西部の砂漠にある「ピナクル・ロック」なる架空の岩山を巡って、時代を超えた重層的な物語が並行的に綴られていきます。18世紀には、宣教師が天使の姿を幻視。19世紀には、モルモン教の暗殺組織に属する男が謎の飛行船と接近遭遇。20世紀初頭には、白人の男の子を連れた先住民の姿が目撃されて人狩り騒動が発生。20世紀半ばには、UFOとの交信を望んだ男がカルト組織を結成。

そして2008年。さまざまな不思議な出来事が起こった場所で、旅行に来た夫婦の自閉症の子供が行方不明になるというのが、中心的な物語。夫はインド系アメリカ人で、妻はユダヤ系。民族や宗教の違いからくる軋轢を乗り越えて結婚したものの、障害を持った息子の誕生によって関係が微妙になっている夫婦は、息子の失踪によって、どう変わっていくのでしょう。イギリス人のロック・ミュージシャンや、イラクから移住してきた少女は、そこにどう絡むのでしょう。もっとも理解に苦しむのが、コヨーテのエピソードなのですが・・。

「砂漠には何でもある。と同時に、何もない。砂漠は神だ。しかし、そこに民はいない」という文章が登場しますので、タイトルの「民のいない神」とは、砂漠のことなのでしょう。ただし、この言葉も重層的な意味を含んでいそうです。作中に登場する、あらゆる種類の膨大なデータを飲み込んで相関関係を見出していく「金融システム」なども、「現代の秘儀」なるオカルトのようです。

2015/9