りぼんの読書ノート

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鯖猫長屋ふしぎ草紙(田牧大和)

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一見普通の生活をおくる「ワケアリ」の主人公。そこに近づいてくる謎めいた存在。明かされる過去の因縁。ついほだされる人情と、先の読めない今後の展開。まさに、田牧さんの連作時代小説にぴったりのテーマですが、主人公然としているのが鯖模様の三毛猫であり、少々「ふしぎ感」も漂っているあたりに、異色感があります。

 

ところは江戸の根津宮永町。なぜか鯖縞もようの猫が一番いばっている長屋の飼い主は、三十半ばの売れない画描きの青井亭拾楽。実は彼は、かつての義賊「黒ひょっとこ」であり、非業の死を遂げた弟分の飼い猫の二代目の世話をしながら、「誰か」を待っていたのです。

 

そこに越してきたのが、いかにもワケアリそうな美女のお智。両親が殺害されたという彼女が、拾楽の「待ち人」なのでしょうか。気配を感じさせずに大道芸を生業としている浪人・木島主水介も、なぜか長屋に近づいてきた常に華やかな雰囲気を纏わせている同心・掛井十四郎も怪しそうです。そもそも拾楽が「誰か」を待っているのは、何のためなのでしょう。

 

お智の引越しの手伝いに来た三次の悪巧みや、調子に乗って問題を起こす長屋の気のいい男たちや、幽霊に取り憑かれた黄表紙の作家や、長屋に迷い込んできてサバの子分となった大きな犬のエピソードなどが続きますが、物語は少しずつ進んでいきます。各章の冒頭に挿入される、謎の登場人物の一人語りが効果的ですね。

 

最後は捕物帖のような展開になりますが、永代橋が落ちることを予見して長屋の面々を救ったというサバ猫の圧倒的な存在感を楽しめる作品です。

 

2015/9