りぼんの読書ノート

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希望(ホープ)のいる町(ジョーン・バウアー)

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翻訳者として著名な金原瑞人氏が選んだヤングアダルトのシリーズの中の一編です。違っていたらすみませんが、山本弘さんの『詩羽のいる街』のタイトルは、本書から連想されたものかもしれませんね。

 

本書のヒロインはホープという名を持つ16歳の高校生。腕の良い料理人である叔母アディの職場でウェイトレスをしながら、アメリカ各地を転々としながら転校を繰り返しています。父親は不明で、母親は優秀なウェイトレスながら母性ゼロ。娘にチューリップというふざけた名前を付けて放置し、叔母のアディに押し付けている状態。ホープという名前は、12歳になった時に彼女自身が望んで改名したもの。

 

物語は、アディとホープがブルックリンを離れて、ウィンスコンシンの小さな町へと都落ちする場面から始まります。そこの食堂の店主であるストゥープは立派な人物ですが白血病を患っており、手助けを求めていたのです。しかもストゥープがいきなり、汚職町長に対抗して町長選に出馬すると宣言したものだから、彼女の生活も物語の展開も、思ってもいない方向に動き出していきます。

 

本書は若者たちが選挙運動に関わっていく小説だったのです。立候補の届け出に必要な署名を集める段階から始まる選挙期間中、現職町長の陣営から根拠のない批判やさまざまな嫌がらせを受けながら、町の住民として声をあげることの大切さを学んだホープは、ついに故郷と呼べる場所を見つけることができたのです。もちろん選挙結果やストゥープの病状も気になりますが、それを書いてしまってはネタバレですね。優れた児童文学に贈られるニューベリー名誉賞を受賞した作品であり、明るい気分になること間違いありません。まるでアディが作った美味しい料理のように。

 

2021/7