りぼんの読書ノート

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日本文学全集6 源氏物語 下 各帖(池澤夏樹編/角田光代訳)

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上巻・中巻と同様に、前の記事で本書に関する概説を書いたので、ここでは各帖ごとの概要をメモしておきます。

 

42帖「匂宮」薫る中将、匂う宮

43帖「紅梅」真木柱の女君のその後

44帖「竹河」女房の漏らす、玉鬘の苦難

まずは2人の主人公が紹介されます。ひとりは女三の宮と柏木が密通して生まれた不義の子の薫君。表面的には光君の末子ですが、幼少の頃に疑問に思う出来事があったとのことで、屈折した内面を持つようになっています。彼の身体に備わってる生得の芳香は、選ばれた人物であることの証でもあるようですが、移り香で存在を知らせてしまうやっかいな出来事も引き起こします。もうひとりは明石中宮と今上帝の第3皇子で光君の孫にあたる匂宮。歳の近い薫君をライバル視して、念入りに調合した香を焚きしめている人物。薫君は光君の血を引いてはいないのですが、光君の属性は色好みの匂宮と世話好きの薫君に分れて引き継がれているようです。続く2帖は髭黒中将と結婚した玉鬘と、彼女の義理の娘で蛍兵部郷と結婚した真木柱が、ともに娘たちの結婚に右往左往する物語であり、「宇治十帖」のテーマと間接的に関わってきます。

 

45帖「橋姫」宇治に暮らす八の宮と二人の姉妹

46帖「椎本」八の宮の死、薫中将の思い

「宇治十帖」の幕が上がります。桐壷帝の第8皇子で宇治に隠棲している八の宮と知り合った薫君は、月明かりの下で箏と琵琶と奏でる姫君たちを垣間見て心惹かれます。長女の大君は気高く奥ゆかしい女性であり、次女の中君は美しくて明るい女性。宇治の姫君たちの存在を匂宮に話してしまったことが、後の悲劇を生むことになります。八の宮は姫君姉妹の後見を薫君に頼んで死去。また薫君は、柏木の乳母子であったという老女房から出生の秘密を知らされるのでした。

 

47帖「総角」それぞれの思惑

48帖「早蕨」中の君、京の二条院へ

薫君は奥ゆかしい大君に心惹かれていきます。2人は心通わせたかに思えるのですが、大君は妹の中君を幸せにしてやって欲しいと願うのみ。薫は中君を匂宮と結ばせることで大君を自分に向き合わせようと企み、それはうまくいったかに思えたのですが、匂宮には叔父の夕霧の娘との縁談も進んでいたのです。妹を不幸な運命に陥らせたと思い込んだ大君は、心労のあまり儚くなってしまうのでした。大君を失った薫君は深い悲嘆に沈みます。これを聞いた明石中宮は「そこまで想われる女人の妹姫なら」と、匂宮に中君を二条院へ妻として迎え入れることを許します。

 

49帖「宿木」亡き八の宮が認めなかったひとりの娘

物語は新たな展開を迎えます。薫君は今上帝からの依頼で後見のいない女二の宮と結婚。匂宮は中君を妻に迎えたものの、夕霧の娘を正妻に迎えることも余儀なくされてしまいます。懐妊していた中君はショックを受け、後見人である薫君に相談。しかした中君への同情は、次第に恋情へと変わっていきます(オイオイ!)。ダブル不倫を恐れた中君は、薫君の気持ちをそらそうとして、亡き大君に似た異母妹の浮舟がいることを教えます。

 

50帖「東屋」漂うこと浮き舟のごとし

父親の八の宮から認知されず、母の身分は高くなく、東国の受領である継父には娘とも思われず、受領の財産目当ての婚約者からは受領の実の娘に乗り換えられたという、浮舟の悲しい過去が綴られます。これらのことが彼女を深い諦観の持ち主にさせたのでしょう。彼女と出会った薫君もはじめは、、亡き大君に似た「人形(ひとがた)」としか思わないのです。

 

51帖「浮舟」女君の苦悩と決意

「宇治十帖」の中核となる巻です。はじめは大君の身代わりとしか思っていなかった薫君でしたが、次第に浮舟を愛するようになっていきます。しかし垣間見た浮舟の美しさに惹かれた匂宮は、薫を装って寝所に忍び入り、強引に契りを結んでしまいます。浮舟は重大な過失に慄くものの、淡白な薫よりも情熱的な匂宮にに心惹かれていくのでした。まるで『愛と誠』です。純情優等生の岩清水弘よりも不良青年の太賀誠に心惹かれる早乙女愛! しかしより純情なのは浮舟でした。彼女は理性と感情の矛盾に耐えかねて、宇治川に身を投げてしまうのでした。

 

52帖「蜻蛉」悲しみは紛れず

浮舟の入水を知って、それぞれの悲しみに浸る薫君と匂宮。しかし、しかしなのです。匂宮が気晴らしに侍女たちとの新しい恋を始めたのは性格的に仕方ないとしても、薫君までもが匂宮の姉である女一の宮に憧れたりするのですから!まったく男どもがすることといったら!

 

53帖「手習」漂う浮舟の流れ着いた先

54帖「夢浮橋」二人の運命

実は浮舟は生きていました。死を決意して宇治川に入水したものの、通りかかった横川の僧都一行に発見されて救われ、比叡山の麓の村で看護されていたのです。しかし意識を回復した浮舟は過去を語らず、ひたすらに出家を望み続けます。やがてそのことを横川の僧都から聞いた明石中宮は浮舟生存を確信して、薫君に知らせます。しかし既に出家した浮舟は、「還俗して薫君のもとへ返り、彼の愛執の罪を晴らしてさしあげなさっては」との僧都の手紙にもかかわらず、薫君の手紙に文を返すことはなかったのです。しかしこの後でどのような展開となろうとも、浮舟は自分の意志ではじめて自分の人生の選択を行うことになるのでしょう。このようなオープンエンディングこそが、奇跡の物語にふさわしい幕切れではないかと思います。

 

2021/7