りぼんの読書ノート

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あさきゆめみし11-13(大和和紀)

7【あさきゆめみし11-13(大和和紀)】

光君の薨去から8年後、光君の面影を継ぐものはついぞ現れません。実子・夕霧は実直に過ぎ、先の帝・冷泉院については口にすることなどできようもありません。新たな物語の主人公となるのは、光君の末子として育てられた薫君と、光君の孫にあたる明石中宮の3男である匂宮。「宇治十帖」の始まりです。

 

光君の性格は若い2人に半分ずつ引き継がれているようです。しかし、色好みの匂宮と世話好きの薫君を足しても、光君には及びませんね。神の時代は終わって、人間の時代が始まったような感覚に陥ってしまうほど。そして「宇治十帖」は「男女5人宇治物語」とでも呼びたいほどに、極めて現代的な人間ドラマなのです。

 

女性側の登場人物は、光君の異母弟で宇治に隠棲していた八の宮の三姉妹である大君、中君、浮舟。この3人ともが中途半端な薫君と自分勝手な匂宮に振り回されてしまいます。薫君から思いを寄せられた大君は、妹のためと思って中君を差し出そうとした計らいが裏目に出て失意の中で病死。匂宮と結ばれた中君は正妻の座を得ることなく不遇を嘆きますが、まだ幸福なほうでしょう。そして薫君と匂宮の両方から勝手な思いを寄せられた浮舟は、理性と感情の矛盾に耐えかねて宇治川に身を投げてしまうのでした。

 

紫式部が壮大な物語世界の最期に浮舟という女性を登場させたことには、どのような意味があったのでしょう。2020年に現代語訳を完成させた角田光代さんにして、「実に多くの女性たちが登場してきたこの物語において、なぜ最後がこの人なの?」と自問したとのこと。しかし光君によって出家を許されなかった紫の上との比較において、浮舟は自分の意思を貫き通した女性であったとも言えそうです。生き延びた彼女の将来に思いを馳せざるを得ませんが、このようなオープンエンディングこそが、1000年前の奇跡の物語にふさわしい幕切れではないかと思います。

 

2023/6