りぼんの読書ノート

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あさきゆめみし8-10(大和和紀)

源氏物語』をほぼ忠実にコミック化したシリーズが、いよいよ第34帖「若菜」に突入。これまで紆余曲折はありながらも公私ともに栄光への道を歩み続けてきた光源氏の世界が一気に崩れ落ちていきます。『源氏物語』が今に至るまで素晴らしい評価を得ているのは、「若菜」によるところが大きいのです。

 

転落のきっかけは、異母兄の朱雀院から女三の宮の降嫁を求められたことでした。正妻・葵を失った後の光君にとって、紫の上は正妻格であっても正式の妻ではなかったのです。本来であれば断るべきであった依頼を受け入れたのは、女三の宮が初恋相手の藤壺中宮の姪であったこと。これは、紫の上にとっては二重のショックですね。「心の中の何かが壊れてしまった」紫の上には亡き六条御息所の霊が憑りついて重病となり、蘇生した後も出家を望むようになってしまいます。

 

それよりも皮肉なのは光る君を襲った運命でしょう。軽薄は女三の宮は光君を失望させたのみならず、頭の中条の長男・柏木と密通して不義の子を産むに至ります。かつて藤壺中宮との間に生した実子を我が子と呼べなかった光君は、自分と血の繋がらない男児を我が子として育てることになるのです。ちなみにその子が、後に宇治十帖の主役となる薫君。

 

そして紫の上の死に続いて、光君も薨去。原典ではタイトルしかない第41条「雲隠」を、明石の上の視点から描いたことには賛否両論あるでしょうが、女性視点を重視してきた著者にとっては自然な描写だったのでしょう。あまりにも豊穣であった光君の生涯を寂しく終わらせた紫式部の構想は、このシリーズでも引き継がれています。

 

2023/6