りぼんの読書ノート

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あさきゆめみし4-5(大和和紀)

源氏物語』の世界をほぼ忠実にコミックの世界で再現したシリーズの4巻と5巻は、第12帖「須磨」の後半から第19帖「薄雲」までの物語。晴れて正式な夫婦となった光君と紫に試練が襲い掛かります。。

 

ひとつはもちろん、自ら須磨へと隠棲して政治の表舞台から去った光君を襲う公的な危機。光の政敵である右大臣と弘徽殿大后が実権を握っている京に戻る術はなく、いたずらに2年の月日が流れます。多くの取り巻きも去った中、ただひとり須磨を訪ねてくれたのは親友でライバルでもある権大納言(頭中将)だけでした。しかしそこで光君は、第2の運命の出会いを果たすのです。その相手は明石君。

 

京で留守を守り続ける紫にとっても、明石君の登場はショックでした。光君に正直に打ち明けられたところで苦しみが減じるわけではありません。やがて光は朱雀帝に召喚されで京に復帰したものの、明石君が女児を生んだと聞かされては、子供を生していない紫は安らかではいられません。紫式部も紫と明石の関係をどのように描くべきか、思い悩んだことでしょう。明石のちい姫をめぐるドラマの決着を見るのはまだ先のことになります。

 

その一方で朱雀帝は位を退き、光君と藤壺の息子である冷泉帝が誕生。病に倒れた六条御息所の遺言を守り、光君は前斎宮であった娘を養女に迎えて冷泉帝へ入内させ、後の秋好中宮への道を開きます。そして藤壺が亡くなり、冷泉帝が出生の秘密を知ったところで第6巻は終わります。

 

このシリーズの特徴は、光君との愛に翻弄された女性たちの心の声を表に出していることでしょう。死の床についた葵は「愛したらただ微笑むだけでよかったのに」と呟き、朱雀帝とともに物語から退場する朧月夜は「朱雀帝が愛してくれたほどには光君は私を愛してはいない」と語り、六条御息所は「娘には恋のの苦しみなど味合わせたくない」と言い遺します。そして紫と明石は「このような関係でさえなかったら、私たちは良い友人になれたはずなのに」と想い合うのです。後の瀬戸内寂聴版『女人源氏物語』に引き継がれていく視点であるように思えます。

 

2023 /6