りぼんの読書ノート

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日本文学全集5 源氏物語 中 各帖(池澤夏樹編/角田光代訳)

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前の記事で本書に関する概説を書いたので、ここでは各帖ごとの概要をメモしておきます。

 

【玉鬘十帖】

22帖「玉鬘」いとしい人の遺した姫君

23帖「初音」幼い姫君から、母に送る新年の声

24帖「胡蝶」玉鬘の姫君に心惹かれる男たち

25帖「蛍」蛍の光が見せた横顔

26帖「常夏」あらわれたのは、とんでもない姫君

27帖「篝火」世に例のない父と娘

28帖「野分」息子夕霧、野分の日に父を知る

29帖「行幸内大臣、撫子の真実を知る

30帖「藤袴」玉鬘の姫君、悩ましき行く末

31帖「真木柱」思いも寄らない結末

亡き夕顔と頭中将の娘である玉鬘が、運命のめぐり逢わせで光君に後見されることになりました。光君の弟にあたる蛍兵部卿や、異母兄であることを知らない頭中将の息子・柏木らから求婚されますが、案の定、光君も玉鬘に邪心を抱いてしまいます。しかし玉鬘は光君の求愛を拒み通し、強引に関係を迫った髭黒大将なる意外な人物と結ばれるのでした。「初音」から「行幸」で描かれる1年間の六条院の風情も楽しめます。

 

32帖「梅枝」裳着の儀を祝う、女君たちの香

33帖「藤裏葉」夕霧、長年の恋の結実

40歳となった光君は准太上天皇という待遇を受けることになります。明石の姫君は入内し、息子・夕霧も幼馴染の雲居雁との結婚を認められ、光君の栄華は絶頂に達しました。【第1部完】

 

34帖「若菜 上」女三の宮の降嫁、入道の遺言

35帖「若菜 下」すれ違う思い

いよいよ【第2部】が始まります。愛娘・女三の宮の将来を気遣う朱雀院からの依頼で、光君は彼女を正室として迎えることを承諾させられてしいます。紫の上は動揺を隠して正室の座を明け渡しますが、子供のいない自分の境遇の不確かさに気付いてしまいます。やがて朱雀院も内侍の朧月夜も出家。彼女とは20年以上も関係を持ち続けていたのですね。冷泉帝は朱雀院系統の東宮に譲位して、光君の血統は皇室に残らないことになりますが、これでよかったのでしょう。

そして4年後、悲劇のきっかけは女三の宮の御簾から逃げ出した1匹の猫でした。元頭中将の息子で、源氏の息子・夕霧の親友でもある柏木が、御簾の合間から垣間見た女三の宮に恋焦がれてしまったのです。光君が、六条御息所の死霊によって病を得た紫の上の看護にかかりきりになっている際に、柏木は思いを遂げてしまいます。やがて女三の宮は懐妊し、真相に気付いた光君に責められた柏木は、恐怖のあまり病に伏してしまうのでした。

 

36帖「柏木」秘密を背負った男児の誕生

やがて女三の宮は、不義の子・薫を生み落とします。かつて義母の藤壺と不義をなして生まれた冷泉帝を我が子と呼ぶことが叶わなかった光君は、因果応報の深さに慄くのでした。心身弱った女三の宮は出家し、柏木は絶望の中であっけなく死去。

 

37帖「横笛」親友の夢にあらわれた柏木の遺言

38帖「鈴虫」冷泉院と暮らす秋好中宮の本音

39帖「夕霧」恋に馴れない男の、強引な策

柏木の一周忌の際に形見の横笛を受け取った夕霧は、柏木の霊から「伝えたい人はほかにいる」と伝えられ、幼い薫に亡き友の面影を感じます。さらに柏木の未亡人で女三の宮の姉である落葉宮に恋心をつのらせて、正妻の雲居雁から強く責められることになるのでした。その一方で退位した冷泉院と暮らす秋好中宮は、亡き母の六条御息所の追善供養を行います。最も高貴で最も優れた女性であった六条御息所の霊が成仏したことを願います。

 

40帖「御法」露の消えるように

41帖「幻」光君、悲しみに沈む

番外「雲隠」

大病以来、体調が優れなかった紫の上が、光君に出家を拒まれたまま静かに亡くなります。明石の御方や花散里ら光君の妻たちや養女の明石中宮らとも心を通い合わせ、全てを取り仕切っていた完璧な女性でした。享年43歳。見方を変えれば『源氏物語』とは「雀の子を犬君が逃がしつる」と叫んでいた10歳の少女の生涯を描いた作品でもあるのです。最愛の妻を亡くした光君の悲しみは一様ではなく、生きる力を失ってしまったようです。そして翌年の冬を最後に消息は絶え、本文のない「雲隠」で世界史上に類のない長編小説の【第2部】は終わります。

 

2021/7