りぼんの読書ノート

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あさきゆめみし1-3(大和和紀)

これまで『源氏物語』を通しで読んだことは2回あります。岩波書店の日本古典文学体系(全5巻)の時は、古文の意味や当時の風習を理解するのが精一杯で、どちらかというと注釈を読んでいるようなものでしたが、2020年に完結した角田光代さんによる現代語訳では「物語世界を駆け抜ける」ことができました。もちろんその間に注釈本や抄訳本、さらには『源氏』に題材を得た小説作品などを読む機会もありました。

 

今回読み始めた『あさきゆめみし』は1980年代に描かれたコミックですが、『源氏物語』の世界を概ね忠実に視覚化し、若い人たちに古典への興味を開いた名作として知られています。円地文子訳と田辺聖子訳を下敷きにしており、後に現代語訳を手掛けた瀬戸内寂聴さんからも高く評価されたとのこと。冒頭の桐壷帝と桐壷更衣の馴れ初めはオリジナルですが、読者の興味を惹くために「あえて」導入部を丁寧に描いたとのことです。

 

1~3巻は、第1帖「桐壷」から第12帖「須磨」の前半まで。公的部分は、生母の桐壷更衣を失って臣籍に降下された光が母と瓜二つの義母・藤壺更衣とあやまちを犯して生まれた不義の子が東宮に立てられるまでの物語。私生活面では、男児・夕霧を生んだ正妻・葵が六条御息所の生霊に殺された後に、幼女の頃から引き取っていた若紫を正妻に迎えるまでの物語。その一方で、新帝の更衣となるはずだった朧月夜との密会が暴かれて、自ら須磨に隠棲を決意するに至ります。

 

良く知っているストーリーですが、視覚効果が加わると印象が異なってきますね。ただ一度の過ちを悔いて出家する藤壺。夫の光と親密な関係が築けなかったことを悔やむ葵。自尊心と執着心によってた身を焼き尽くした六条御息所。そして見る度に美しく成長していく若紫。角田源氏のレビューで朧月夜のことを「不道徳セレブのイメージがある」と書いた覚えがありますが、本書では自力で運命を切り開いていく自信に満ちた女性として描かれます。たぶんこちらの解釈が正解ですね。

 

ライバル関係にある左大臣と右大臣を左右の藤原氏と呼んで、光を臣籍に降下させた背景には新帝を守り支えるためであったことを明言しておいたり、後に秋好中宮となる六条御息所の娘が母を苦しめた光を恨む場面や、宇治十帖の主役姉妹の父親となる八宮の名前も登場させるなど、後の物語の伏線もしっかりしています。

全13巻なので残り10巻。少し間を空けながら丁寧に読んでいこうと思います。

 

2023/6