りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ブライトン・ロック(グレアム・グリーン)

イメージ 1

ドーバー海峡に臨むイギリスの保養地ブライトンで、不良少年団を率いているのは、まだ17歳のピンキー。彼らが、前リーダーの殺害に関わった男フレッドを殺すところから物語が始まります。警察はフレッドの死を自然死と判断したのですが、手落ちがありました。純朴な16歳のウェイトレスのローズに、不自然なアリバイ工作を見られていたのです。さらに死の直前にフレッドと出会っていた、正義感の強い女性アイダも、真相を追い始めます。

ピンキーはローズの口をふさぐために彼女と結婚を試みます。当時のイギリスの法律では、容疑者の妻の喚問をすることのハードルが高かったのですね。ところがこのピンキーという少年、いつも硫酸や剃刀を持ち歩き、どんな暴力も厭わない悪の化身のような人物なのですが、まだ童貞で、しかも敬虔なカトリック信徒でした。殺人は犯せても、愛のない結婚をためらうなんて、かなり微妙なキャラですね。

物語は、ローズとの結婚を逡巡するピンキーの葛藤を巡って進んでいきます。最後にはピンキーを愛してしまったローズの積極性に押し切られて結婚に至るのですが、アイダは真相の追及をやめません。そしてピンキーは、彼を慕う新妻のローズまでも殺害しようとするのですが・・。

どうにも救いのない小説ですが、ローズの真情が一点の光ですね。自分を殺そうとさえしている少年さえも赦そうとするのです。そしてひとたびは愛した少年が、自分の中で生き続けていることに救いを感じるのです。まるで現世では不幸な結末しかもたらさなかった愛が、永遠という時間の中で成就するかのように。

本書を翻訳した丸谷才一氏は、「本書はノヴェルでありながらエンターテインメントでもあり、ここにグリーンの全てがある」とまで賞賛していますが、主人公の人物造形を少々古臭く感じてしまうのは、神無き世界に生きる者の宿命なのでしょうか。

2019/2