りぼんの読書ノート

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奴隷小説(桐野夏生)

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人間社会に存在する「支配と隷属」の構造を、さまざまなモチーフで描いた短編集です。寓話的な世界、過去の世界、現在の日本や地球のどこかで奴隷状態に陥っても、そこから脱出する意志を持ち続ける者たちがいるのです。

長老との結婚を拒んで舌を抜かれた女(雀)。武装集団によって拉致された女子高生たち(泥)。夢の奴隷となったアイドル志望の少女(神様男)。娘の自殺という悲しい記憶に囚われる女性(REAL)。炭坑で奴隷的な労働環境に沈められた少年(ただセックスがしたいだけ)。鎖国時代に人身売買の対象とされた男(告白)。どこかの独裁国家強制収容所に閉じ込められた者たち(山羊の目は空を青く映すか)。

しかし、彼らの脱出の意志が報われることになるかどうかは不明なままです。むしろ隷属状態に甘んじるよりも悲劇的な結果を招きかねないのです。しかし、自分自身が格差社会の階層に捉われていることを認識しないことには、何も始まらないのでしょう。現代社会に対する著者の強い怒りを感じる作品でした。

2019/2