元妻と娘マーリーとの関係と歯痛に悩む元警官の探偵ブロディにもちこまれた3件の依頼は、どれも過去の事件の再調査でした。34年前に幼い妹オリヴィアが失踪した事件の真相を求める中年姉妹アメリアとジュリア。20年前に18歳の愛娘ローラを殺害した犯人を捜し続ける父親セオ。25年前に夫を殺害した姉から託されながら失踪した子供ターニャの行方を探す妹シャーリー。
どの事件の真相も、当時「そう見えた」ものではありませんでした。やはりオリヴィアは殺害されていたのですが、犯人は変質者でも父親でもなく、ローラは巻き添えで殺されたのではなく、ターニャは理由なく逃げ出したわけではなかったのです。
並みのミステリであれば、この3つの事件を結びつける「隠れた縦糸」や「意外な横糸」を浮かび上がらせていくのでしょうが、本書ではそうはなりません。しかし、目立たない「共通のパターン」を読み取ることができるのです。しかも同じパターンが、ブロディ自身の過去の生い立ちや現在の生活にも、現れているのです。
ストーリーは複雑ではありませんが、「寄り道」の多い作品です。それらは「伏線」というわけでもなく、物語世界に深みを与えているよう。『世界が終わるわけではなく』の「シャーリーンとトゥルーディ」のような、アメリアとジュリアのこじらせ姉妹ぶりや、ネコ屋敷の老婦人ビンキーの頑固さは、楽しめる箇所。唐突に登場したキャロラインの正体には、意表を衝かれました。
そういえば、本書では、すべての事件が解決されているわけではないのです。続編があるようなので、そちらに謎解きがあるのかもしれませんが、不明なままでも構わないと思わせてくれる、不思議なミステリです。
2015/6