りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

アディ・ラルーの誰も知らない人生 下(V・E・シュワブ)

闇の神と取引してしまい、長い生命と自由を得たものの、誰の記憶にも残らない孤独な人生を歩んでいるアディ。そんな彼女がニューヨークで出会った青年ヘンリーは、たったひとり、彼女のことを憶えていてくれる人でした。アディはヘンリーと恋に落ち、求められるままに自分の真実の人生を語ってしまいます。

 

驚くべきことに、ヘンリーは彼女の話を信じるのです。なぜなら彼もまた絶望の中で、闇の神と取引してしまったから。ヘンリーが望んだのは、誰からも愛されることであり、もちろん望みは叶いました。しかし誰もが彼に好意を抱くのは、彼の中に「自分が望む姿」を勝手に見てしまうだけのこと。そんな中、アディだけが彼の真の姿を見てくれたのです。いかにもお似合いのカップル成立ですが、もちろんこのままハッピーエンドにはなりません。ヘンリーの取引が終了する期限が近づいていたのです。アディはヘンリーの命と魂を救うために、闇の神との対決に向かうのですが・・。

 

著者が本書の着想を得たのは『ピーター・パン』からだったとのこと。しかし本書は成長を拒否する男性の物語ではなく、成長を望む女性の物語です。女性が不自由を強いられ、虐げられてきた歴史をしたたかに潜り抜けて来たアディは、最後に自分自身の意思で選択をするのです。永遠に変わらない闇の神がピーター・パンのイメージと重なりますが、アディは、ピータ・パンをネバーランドに置き去りにするウェンディではありません。彼女は、闇の神を次の挑戦へと誘うのですから。

 

「誰の記憶にも残らない人生」の「誰にも忘れられない物語」でした。

 

2022/10