りぼんの読書ノート

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黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続(宮部みゆき)

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これまで百物語の聞き手を務めてきたおちかは、内なる心の闇を晴らして嫁に行く形で卒業。後を継いだ三島屋の次男・富次郎は、「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」という聞き手の役割をうまくこなすことができるのでしょうか。

 

「泣きぼくろ」

富次郎の最初の相手は、再会した幼い頃の友人でした。両親、長男夫婦、次男夫婦、出戻りの姉などの大所帯で切り盛りしていた豆腐屋は、なぜ一家離散してしまったのでしょう。家族の間の禁忌は壊してはいけないものなのです。

 

「姑の墓」

格下の蚕の村の棚主の家に嫁いできた町の豪商のお嬢様の鬱屈を吹き飛ばしたのは、山一面に美しく咲き誇る桜の花でした。しかしその一家の女には、絶景の丘に登ってはいけないという言い伝えがあったのです。優しい手のひらを描いてこの話を聞き捨てにした富次郎は、次第に慣れてきたようです。

 

「同行二人」

妻子を失った悲しみを忘れるように道中を走る飛脚に取り付いたのは、やはり寂しい霊でした。彼の後をついてくる霊でしたが、やはり元の村に返さないと成仏できないのです。

 

「黒武御神火御殿」

他の3話を合わせたよりも長い作品です。質屋の女中が三島屋に持ち込んだ印半天には、禁教のオラショを記した布が縫い込まれていました。やがて現れた札差の息子が圃り始めたのは、10年前に彼女とともに体験した恐るべき怪異の物語でした。出口のない広大な御殿、周囲を徘徊する魔物、襖絵に描かれた噴火山、黒い鎧を纏った謎の武将。そこに集められた6人の中で、誰が一番罪深いのか。しかし神を恨んで憤死した者には、そんなことを裁かせてはいけないのです。そもそも八百万の神がおわすこの国には、一神教は合わないように思えるのですが・・。

 

2020/12