りぼんの読書ノート

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蝶たちの時代(フリア・アルバレス)

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1930年から1961年までの長期に渡ってドミニカ共和国の大統領を務めた、独裁者トルヒーリョの悪政については『チボの狂宴(バルガス=リョサ)』や『オスカー・ワオの短く凄まじい人生(ジュノ・ディアス)』でも描かれました。本書は、反トルヒーリョ運動が燃え上がるきっかけとなったミラバル3姉妹の虐殺事件に題材を得た作品です。

 

ミラバル家は農場や工場を所有する裕福な一族でしたが、大学で学んだ3女ミネルバがトルヒーリョの虐政の実態を知って反政府運動に身を投じたことを皮切りに、姉妹たちは次々に運動に関与していきます。既に裕福な農場に嫁いでいた長女パトリアは、国の子供たちの将来を懸念して。年若い4女のマリア・テレサは、尊敬する姉たちを手本として。やがて姉妹たちは夫たちも運動に巻き込んでいき、海外の亡命ドミニカ人の解放運動との連携を深め、彼女たちの名前は島中に知れ渡っていきます。

 

しかしトルヒーリョは卑劣でした。彼女たちの夫を逮捕して離れた町に収監し、面会に訪れた3姉妹を途中の侘しい山道で殺害するという暴挙に出るのです。しかしこの事件が独裁政権の終わりの始まりになりました。1年後に彼は反政府運動の高まりを恐れた軍部によって銃撃されて死亡し、後を継いだ一族のメンバーも国外に追放されたことでトルヒーリョ時代は終わるのです。もっともドミニカではその後も独裁や内戦が続き、選挙による大統領の統治は1996年まで待たねばならなかったのですが。

 

ミラバル姉妹が殺害された11月25日は国連によって「女性に対する暴力廃絶のための国際デー」と名付けられたのみならず、彼女たちは聖人のような扱いを受けているようです。36歳で死んだ敬虔な長女パトリアは魂の救済者として、34歳で死んだ3女ミネルバ大義の守護者として、24歳で死んだ4女マリア・テレサは恋の縁結び者として。

 

姉妹の中で唯一生き延びた次女デデは、「なぜ殺されなかったのか」と自問し続け、姉妹を記念する博物館の世話をして生涯をすごすことになりました。本書は亡くなった3人だけでなく、とりわけ晩年に著者の訪問を受けたデデを含めた4姉妹の全員を等分に扱っています。デデに捧げられた本書は、生き残った者たちがどう生きるかを指し示した作品でもあるのです。

 

2020/12