りぼんの読書ノート

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ジュスタ(パウル・ゴマ)

ルーマニアの反体制派文学者として名高い著書が、1985年に亡命先のパリで著した作品です。本書の訳者が先に解説に目を通しておくことを勧めているように、ルーマニア近現代史および戦後の反体制運動を理解しておくことが必要です。本書は著者が1956年に21歳で当局に逮捕された事件をもとにした作品なのですから。

 

ブカレスト大学文学中に在籍中の視点人物は、もちろん著者の分身です。1956年10月のハンガリー動乱の際に、隣国のルーマニアではソ連批判は起こりませんでした。主人公は自作の反体制小説を発表して逮捕されることになるのですが、密告者も入り混じっている同級生たちの間で保身のみを考えていた主人公が、なぜそのような行動に出たのでしょう。その背景にはある女性への恋愛感情があったのです。

 

その女性トリアは、正義派スターリストであったが故に「ジュスタ(正義の女)」と呼ばれていました。そんなトリアは主人公に、ハンガリー動乱への呼応計画を打ち明けるように迫るのですが、それは彼女の純真さがもたらした興奮だったのか、それとも彼女は密告者だったのか。ジュスタに恋していた主人公は、彼女を巻き添えにしないように自ら逮捕される道を選びます。しかしそんな行為を嘲笑うように、後にジュスタも逮捕されて残虐で屈辱的な拷問を受けたことを知らされるのでした。

 

著者はチェウシェスク追放後のルーマニアに戻ることなく、2013年に生まれ故郷のモルドバ共和国(かつてルーマニアの一部であった旧ベッサラビア)の国籍を取得しますが、亡命先のパリを離れることはありませんでした。2020年に新型コロナウィルス感染によって、84歳の不屈の生涯をパリで閉じています。訳者が本書のあとがきを記している最中だったとのことです。

 

2022/6